人生が変わった夏

ボクは、母と遊びにきていて叔母に「でかけてくる」と声をかけて家をでた。小学三年生の夏休み。朝、宿題は終わらせた。空は青く、熱い日差しが照り付ける。玄関先から自転車を出してサドルにまたがりペダルをこぎだす。すぐに車が2台程度走ることのできる道路がある。注意して道路に出ると右に曲がった。

少し先で道路工事をやっているようで、砂利を積んだ泥で汚れたダンプカーの後方が見えた。いまはそのダンプカーの脇を通れそうにないので、少し離れて待つ。ボクの前にも自転車にまたがった男子がいる。顔には見覚えがあるが名前は知らない。5年生か6年生の男子だ。男子は、自転車にまたがったまま、ダンプカーの左後方に手をかけていた。

その時、ガシャガシャと初めて聞くすごい音がした。ボクがはっと顔を上げると、バックし始めたダンプカーに男子が自転車とともに大きなタイヤに巻き込まれたのだ。工事を見ていたおばさんが大きな声で叫ぶ。「ひいた!動かして!」「動かして」と。

ダンプカーの運転手が飛び降りてくるとその状況を見て、再び運転席に駆けもどるとダンプカーを前進させた。また、すごい音が響く。

ボクは、どうしてよいかわからず、家に帰った。母は出かけて10分も経たずに戻ってきたボクに、ただごとならない状況であることを察して「どうしたの」と尋ねるがボクの口は開かない。「くるまにひかれた」となんとか答えた。そして母と叔母と事故現場に向かった。

ダンプカーの運転手は、クルマを移動させたもののどうしようもなく、男子に声をかけている。救急車は来ていない。パトカーがやってきた。警察官が下りてくる。男子に声をかけながら救命活動を始めた。別の警察官は周囲を確認したあとこちらにやってきた。母はボクが現場を目撃したことを伝えた。ボクは呼吸が苦しくなって、その場にはいることができない。母と家に戻った。

しばらくすると家に刑事がやってきて、事故の状況をボクに聞いてくる。見たままを話す。

その後、その男子がどうなったか気にはなっていた。夏休みが終わってもその男子を見かけなかった。秋になり、体育館で全体集会があった。その時、車いすに乗ったあの男子が入ってきた。両脚が無かった。その状況を目の当たりしたボクの心は、説明できないくらいに暗くなった。

この夏、男子の人生は大きく変わった。ダンプカーの運転手の人生も変わった。男子の周囲にも変化があっただろう。ボクの心にも大きな記憶が残った。

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